西村Q太郎トラベルミステリー「池上に眠る男」


***第二章「京浜東北線・謎のメロディ」***


九津川と鶴井は有楽町駅から京浜東北線に乗り込んだ。
運よく空いた席に二人並んで座ることが出来た。
謎の手紙を出してきた男にについて、九津川は車内で鶴井と話し合おうと考えていたのだが 何しろ昨夜連続30人殺人を解決したばかりの身である。激しい睡魔に襲われ、座るやいなや 眠ってしまった。
鶴井もそんな九津川の健康状態を気にしようかなと思った矢先に、これまた眠ってしまったのだった。

九津川は夢を見ていた。
事件が解決した清々しい気分で妻の直子と花畑を歩いている夢だった。そのうちに ビバルディの「春」のメロディーなどもBGMとして奏でられ、幸福な雰囲気を更に盛り上げていた。

鶴井も夢をみていた。故郷の青森の夢だった。鶴井は高校生で初恋の少女も登場していた。 そして何故だか鶴井の夢の中でもビバルディの「春」が流れ、楽しかった高校時代に彩りを添えていた。

しかし、突然けたたましいメロディーが二人の幸福な夢を打ち消した。
九津川と鶴井は並んでハッと目を覚ました。電車は蒲田を今出ようをしている。二人は慌てて 電車から飛び降りた。

「何なんだ。眠りを覚ますこの曲は!?」
「この曲には聞き覚えがありますね、警部。・・・・・・そうだ!これは蒲田行進曲ですよ」
「蒲田行進曲!確かにそうだ。この曲は蒲田行進曲には違いないんだが・・・問題は何故 駅で蒲田行進曲がかけられているかだよ。鶴さん」
「警部、これはもしや電車の発車を知らせるメロデーなのではないでしょうか」
「発車音楽かい、鶴さん」
「そうですよ、警部。何しろここは蒲田ですからね。郷土愛から蒲田行進曲を発車音楽にしてる 可能性は十分に考えられます」
「そうだな、早速駅員に聞いてみよう」

鶴井の刑事としてのカンは見事に的中した。
JR蒲田駅では電車の発車を知らせる為の音楽として「蒲田行進曲」を採用していたのだった。
JRの各駅で使用されている発車音楽だが、通常はいくつかのパターンのメロディーを それぞれの駅、ホームで使っている。しかし、何故だか蒲田はオリジナリティー溢れる「蒲田行進曲」 なのである。上り線ホームは出だし部分、下りホームはサビの部分と使い分けている所もにくい。
因みに二駅東京よりの大井町駅ではもっと謎な事に発車音楽に「ビバルディ」を採用している。
先ほど九津川と鶴井が夢の中で聞いた「春」は大井町での発車音楽だったのだ!

ビバルディと蒲田行進曲。この余りのギャップに間に挟まれた大森駅はなす術もないという。(嘘)

「なんだか侮れない町だなぁ、大田区蒲田界隈・・・」
「そうですね、この辺なら謎に包まれた男の一人や二人眠っていそうですよ、警部」
「おいおい、物騒なことは言わないでくれよ。鶴さん」
「はっはっは。」

ともかく蒲田にはついた。あとは東急池上線に乗り換えて池上を目指すだけだ。
九津川に答えは見出せるのだろうか。

つづく




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