T島さんの結婚式
’96.9




T島さんとは5年間一緒に仕事をした。
私とT島さんは性格的には正反対で、仕事上では衝突もあったけど
プライベートでも結構親しくさせていただいた。
T島さんの結婚式の2ヶ月前に仕事で二人で京都に行った。(暑かった)
早く終わったので清水寺で風に吹かれてのんびり過ごした。
もう一度行ってみたいな〜。





「兎に角私は普通にやりたい」

ある一時期、私は4年先輩のT島さん、何年先輩だかわかんないけど8歳年上のSさんと
よく食事にいったり、飲みにいったり、親しくしていた。
私の結婚が決まって、私が「披露宴とかの演出は何も要らない」というと
この二人は決まって「一生に一度の事だから、何もやらないときっと後悔するよ」と
諭しにかかったものだった。(その当時は3人とも独身)

そしてT島さんが結婚することになった。
彼女はいつも「普通」という言葉を口にしていた。
「普通に結婚式場で」「普通に神前式をして」「普通に客を招待して」「普通の演出の披露宴をする」
結婚式のスタイルは人それぞれで、どれが普通でどれが普通じゃないなんて事ないと
思うし、普通にやったらいいとか、逆にいけないとか無いと思うけど、
T島さんが盛んに普通を強調していたのは、ひょっとしたらそれまでに色々と結婚観を
話し合っていた私を意識していたのかもしれない。

とにかく噂の多い人だった。
社長の秘蔵っ子で、T島さんのやる事には直属の上司でさえ口を出せない事も多かった。
出世も早く、社内では「社長の愛人」という噂話が後を絶たず、仕事上一番身近にいる
私はそれとなくさぐりを入れられたり、嫌味を言われたり、逆に見方になるような素振りを
されたりした。
だから、T島さんが先に結婚した同僚の旦那さんの友人を紹介された時も、まさか
結婚するなんて、私でさえ夢にも思わなかった。
噂の真相は知らない。(まさか本人に聞けないし)
でも、T島さんは交際3ヶ月のK山氏と「普通の結婚」を決心したのだった。



またも受け付け嬢に

会場は横浜の専門式場。まるで結婚式のデパートのような大きな専門会場だ。
ロビーは各式に出席の来賓でいっぱい。しかし、上手くしたもんで、他の花嫁さんと
すれ違ったりはしない。どういう構造なんだ!?

私はT島さんにも受け付けを頼まれた。もう、二回目ですから(笑)心得たもんさ。
ま、この日は神前式で身内以外は出席出来ないから何にも慌てる必要はないのだ。
が、ナントこの式の模様は控え室内のモニターでずっと中継されていて、早めに来た客は
ウェルカムドリンクなんか飲みながら式の様子が見れるのだ!
例によって受け付けをやっている私は、この中継を見る事が出来なかった。(TT)



社長の心中やいかに

T島さんの結婚披露宴で、会社の人間が座るテーブルは一つだけ。
そこには社長、取締役で関係会社のT社長、S企画部長、S開発部長、K課長など層々たるメンバーと
申し訳程度に(?)私と先輩のSさんと後輩のSさん(Sさんばっかり^^;)という顔ぶれ。
社長はずっとブスッとしている。
というのも、T島さんとK山さんの結婚が決まった直後、K山さんの名古屋への転勤が決定してしまい
T島さんもあと一ヶ月で名古屋へいってしまうのだ。
社内では反対する人もいたようだが、T島さんは一応名古屋の営業所への転勤が認められて
とりあえずは退職はしないのだが・・・。
皆顔ではニコニコしながら、内心社長が主賓のスピーチで何を言い出すのかドキドキだった。
社長は前科二犯だ。
有名なのはある営業所の所長の再婚の仲人をやった時のエピソード。
その所長を社長はとても買っていて可愛がっていた。社長はいい人だが口が悪い。
こういう事情を知っているのは社員だけだというのに、「M(所長のこと)には期待していたのに
裏切られた。だからセールスから内勤にしたのに、やっぱりダメだった・・・云々」
に始まり大分言っちゃったらしく、式終了後、仲人なのに親戚の人がだれも挨拶せずに
帰ってしまったそうだ。
また、社員Kさんと元社員の女性の結婚式でも主賓として招かれたのだが・・・。
何故だかこの結婚式に出席した社員は皆口をそろえて「ひどかったよ。何も話したくない」
というばかりで情報がない。本人も思い出したくも無いとしかいってくれないし。



ああ〜ぁ・・・

そして・・・、社長はしゃべったのでした。その思いの丈を。30分以上の長きに渡って。
場内は一瞬で、まるで会議のような光景に早変わり・・・。
そのスピーチの出だしを私ははっきり覚えているよ。
「男女雇用機会均等法が施行されて10年になります。K江さんが入社したのは丁度
施行された年でした。」
そのスピーチは、社長がT島さんを女性初の管理職に育てようと決意し、10年間
徹底的に帝王学を学ばせて、ようやくここまで来たのに、結婚相手の男の都合に合わせて
全てを台無しにしていいのか!もう女は信用出来ない。もう、女子社員は腰掛け程度にしか
採用しない。という内容で、お陰で会場はどよ〜〜〜〜ん。



主役になる人

いろいろあっても式は進んでゆく。
笑っちゃったのはケーキカット。和装の二人がケーキにナイフをいれた瞬間!
台座が回転し始めたのだ〜。
写真を撮ろうと近くに寄っていた私は一瞬何が起こったのかと思ったよ。
新郎新婦もこんな演出知らなかったみたいで、思わず笑い出していた。
どんな角度からでもよく見えるようにという配慮からなのだろうが、回らされる本人は
堪らない。二人は実に恥ずかしそうにグルグル回っていた。

結婚式では一般的に主役は花嫁と言われているが、T島さんはまた違った意味で主役だった。
新郎のK山氏は全く一般的な中堅サラリーマン。に対してT島さんでは横綱と前頭位格に差がある。
T島さんの親友のスピーチでそれを知らしめるエピソードが発表されてしまった。
二人の結婚が決まったものの、転勤のことなど心配ごとが盛りだくさんだったT島さんは
マリッジブルーに陥ってしまったことがあった。
「結婚止めようか」といったこともあったらしい。その時新郎K山さんがT島さんに言った言葉、
「仕事とK江だったら、俺はK江を取る。仕事なんて辞めてもいい」
あああ、K山さん会社の人たちの前でまるっきりいいとこ無しだ〜。
こっちのテーブルでは社長が「だったらK山君が専業主夫になればいい!!」なんて言ってるし。
早くもT島さんとお姑さんの仲も危惧されてしまう・・・。


とにもかくにも、まあ、お幸せに。

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